「この借金だけはどうしても返したい!」バレずに偏頗弁済できるか?

家族や友人・恋人の借金だけはどうしても返したい!

いよいよ返済が難しくなってきたので自己破産を考えていますが、その前に彼女から借りたお金だけはどうしても返したいです!

よくあるご相談ですね。

自己破産をお考えの方から、家族や友達、婚約者や恋人、職場の同僚など、一部の親しい人やお世話になった人からの借金だけは返したいというご相談をいただくことがあります。

さて。一部の債権者にだけ返済することを偏頗(へんぱ)弁済といいます。たとえ家族や親しい間柄であっても、支払が客観的に難しい状況で、一部の借金だけを支払ってしまう行為はこの偏頗弁済に当たり、その後の自己破産の手続きにおいて不利益が生じます。

詳しくご説明します。

偏頗弁済を隠しきることはまず不可能

自己破産の申立てにあたっては、毎月の家計の収支状況のほか、すべての預金通帳のコピーや給与明細、水道光熱費の領収書、その他不動産、自動車、生命保険、退職金など申立人の財産に関係する資料を幅広く裁判所に提出しなければなりません。

不自然な財産の減少は追及される

経験豊富な裁判官や裁判官書記官がこれらの資料を精査し、どこかに財産を隠したり、不自然な財産の減少はないか、チェックします。

財産の書類に関する不備や不審な点があれば説明を求められる

偏頗弁済がないかどうかは裁判所が最も注意するポイントの一つであり、この点についてチェックが漏れることはまず考えられません。

仮に偏頗弁済をした場合、隠そうとしてもたいていはこの段階で裁判所にバレると思ったほうがいいでしょう。

偏頗弁済のせいで破産の費用が増える可能性がある

申立ての時点で偏頗弁済の疑いが発生し、調査の必要があると裁判所が判断した場合、裁判所は破産手続開始決定と同時に破産管財人を選任し、偏頗弁済行為の詳細について調査させることがあります。

破産者や(及びその代理人)は、破産管財人の調査に協力する義務があり(破産法40条)、これに違反すると免責が許可されないことがあります。

この場合、主に破産管財人の報酬に充てるため、予納金が必要となります。

東京地方裁判所における少額管財事件の場合は20万円ですが、そのほかの裁判所では事案の内容によって30万円から50万円が必要となることもあります。

同時廃止が見込めたにもかかわらず、偏頗弁済を理由に管財事件に振り分けられたため、破産の費用が増えてしまうことがあるのです。

受け取った人にかえって迷惑になる可能性がある

受け取ったお金の返還を求められる

偏頗弁済が発覚した場合、裁判所から選任された破産管財人が、その偏頗弁済行為を否認し、お金などを受け取った人に対してその返還を求めることがあります。

良かれと思って払っても、あとで取り返されてしまうのですから、意味はありません。

むしろ、突然知らない弁護士から連絡が来て受け取ったお金の返還を求められ、時には裁判まで起こされるわけですから、大変な迷惑をかけてしまいます。

迷惑をかけたくないという思いでやったことが、かえって相手に大変な迷惑を招くことになるのです。

免責が許可されない可能性がある

偏頗弁済は法律上免責を許可できない事情にあたる

自己破産の目的は、借金などの責任を法的になくすことにあります。「免責」という制度です。

しかし、偏頗弁済は法律上免責を許可することができない事情とされており、程度によってはせっかく自己破産を申し立てたのに免責が許可されないことがあります。

仮に免責を認めるとしても、破産管財人の調査が必要となるなど、手続の負担が大きくなることもあります。

なお、破産者が裁判所の調査に対して説明を拒否したり、虚偽の説明をした場合は、結果的に偏頗弁済がなかったとしても、免責が許可されないことがあります。

犯罪になる場合がある

偏頗弁済行為が破産法上の犯罪になることがある

破産法266条

「債務者が、破産手続開始の前後を問わず、特定の債権者に対する債務について、他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって債務者の義務に属せず又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをし、破産手続開始の決定が確定したときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

「破産手続開始の前後を問わず」とされていることがポイントです。支払が危機状態に陥っているならば、たとえ自己破産申立の前であっても、具体的な状況によっては偏頗弁済が犯罪になってしまう可能性があるのです。

偏頗弁済は百害あって一利なし

偏頗弁済は、支払った相手にかえって大変な迷惑をかけてしまうことがありますから、あえて行うメリットはないといっていいでしょう。

もし、すでに偏頗弁済をしてしまっているなら、正直に裁判所や破産管財人に報告し、説明をすることが得策です。

正直に報告して手続きに真摯に協力すれば、裁量で免責が許可されることが統計上ほとんどだからです。

無理に隠そうとしても、まずバレると考えたほうがよいでしょう。

その場合、免責に関する判断は非常に厳しいものになるでしょうし、場合によっては犯罪になり罪に問われることすらあるのです。

なお、免責許可決定が確定しても、厳密には借金が消えて無くなってしまったわけではなく、強制執行ができない債権として残っています(自然債務といいます)。

免責によって責任がなくなった後、債務者が自分の意思で払うことは自由です。

どうしても迷惑をかけたくない人がいるというなら、自己破産の手続きがすべて終わってからお礼やお詫びのしるしとして(ただし無理のない範囲で)ということになるでしょう。

自己破産を考えているが家族や友人からも借金があるという方は、法律事務所までご相談ください。

債務整理は事務所選びが一番大切!